交響曲第2番op.73-ブラームス-
ブラームスはその生涯中に、4つの交響曲を残している。
彼が交響曲第1番に約20年もの年月を費やし、何度も加筆・訂正を行ったことはよく知られているだろうか。
偉大なベートーヴェンの9つの交響曲と同じ形式を取ることに彼が多少なりともプレッシャーを感じていたことは、想像に難くない。
しかし、その後に続く第2番は、1番とは対照的な興味深い特徴を持っている。
一つ目の交響曲を43歳で書き上げたブラームスは、その翌年の夏に行った静養地ペルチャッハ(南オーストリア、アルプス山麓)でこの曲の着想を得た。
彼はそこの美しさをよほど気に入ったらしく、「ここでは旋律がこんなに沢山生まれてくるので、僕は散歩のとき、それを踏み潰さないように気をつけないといけない」と友人に書き送ったりもしていたようだ。
彼のご満悦な様子が目に浮かんでくる。
そこで書き始め、若干3ヶ月で完成を見た交響曲は、その気分を写し取ったかのように明るく穏やかで、誰にも無理を強いることがない。
彼自身も、この曲のことを「新婚の若い夫婦の為に書かれたように明るくて愛らしい」と評している。
彼の期待と自信通り、この交響曲の初演は第1番を超える嵐のような喝采を浴びた。
ブラームスはこの経験から、交響曲創作への自信をつけてゆくことになるのだ。
第1楽章 Allegro non troppoニ長調 四分の三拍子

ホルンと木管の柔らかい第一主題でこの楽章は始まる。

その下でチェロとコントラバスによって反復される短いモチーフは、目立たないものの交響曲全体に鏤められている。

全オーケストラが共に演奏する、高揚感のある間奏部の後、ヴィオラとチェロが優しく第二主題を歌う。

これは管楽器、ヴァイオリンへと受け継がれてゆき、やがて付点リズムの新しい主題が総奏ではじけるように演奏される。
やがて展開部に入ると、平和さは消えてしまう。
駆け回る風のように姿を変え、常に動き続けながらクレシェンドしてゆき、F-Aの動機を積み重ねる息づまるようなクライマックスを迎える。

やがて全体が穏やかな景色を取り戻すと、第一主題はオーボエによって、第二主題はチェロとヴィオラによってもう一度再現される。
そして、一度は嵐の予感を感じさせながらも、ヴァイオリンの低音によって歌われる子守唄で再び落ち着き、弦楽器のピチカートと管楽器の鼻歌で優しくこの楽章は閉じられてゆく。

第2楽章 Adagio non troppo ロ長調 四分の四拍子

第1楽章とは少し雰囲気を異にした、霧のかかったような追憶を思わせる楽章だ。切ない憂鬱げな第一主題をチェロが歌う。

しかし、それがヴァイオリンに受け継がれると曲調は少しずつ明るくなってゆき、チェロがもう一度現れるときには赦しのメロディが奏でられていく。
小雨の降るような優しい始まりを見せる中間部は、次第に表情を変えて大きく波立つ。
弦楽器によって演奏される不安定な動機ののちに、やっと曲はもとの穏やかな調子に戻り、ヴァイオリンが中低弦の伴奏に乗って美しく歌う。
トランペットの叫びによって一度は崩れたかに見える平安だが、それもじきに落ち着き、少し物悲しげに楽章は終わってゆく。
「憂鬱」「暗い」と評されがちな第2楽章だが、それに対するような赦しや救いが端々に見られるのも、この楽章の美しさだろう。

第3楽章 Allegretto grazioso ト長調 四分の三拍子

古典的な配置ではメヌエットやスケルツォが置かれることの多い第3楽章だが、ブラームスは全ての交響曲で第3楽章に工夫をこらし、個性豊かな曲に仕上げている。
そのためか、第2番のこの楽章も初演で大好評を博し、観客の熱烈な要求によりもう一度最初から演奏させられたそうだ。
オーボエの演奏する主題と、チェロのピチカートによるアルペジオが気まぐれに続く。しかし、急に弦楽器によって作り変えられた第一主題が登場し、急かすような速いテンポで意気揚々と駆け抜ける。

これはいけない、と第一主題がこれを遮り、曲はもとの長閑な風景を取り戻す。
次に現れるのは、少し重々しい単調な動機だ。

しかし、それを押しのけるようにまたしても速いテンポが現れ、縦横無尽に駆け回る。
それらを全て統一し、優しく膝の上に乗せてやるのが、嬰ヘ長調に移された第一主題だ。

穏やかに揺れながらやがてもとのト長調に戻り、ゆったりと余裕を見せて終わってゆく。

第4楽章 Allegro con spirito ニ長調 二分の二拍子

いたずらっぽい微笑みを浮かべながら現れる第一主題は、弦合奏で静かに始められる。

軽く楽しい雰囲気はすぐにフォルテシモに打ち切られ、勢い付いて生まれ変わった第一主題がティンパニと共に希望に満ち溢れたメロディを歌う。
管楽器とピチカートが愉快に割り込むと再びフォルテシモが現れ、弦楽器が演奏する上昇音型の反復が曲を頂点に押し上げる。
やがて静かに第一主題が帰ってくるが、今度は少しずつ暗い雲が現れ、木管と弦の掛け合いによって次第に迫力を増してゆく。
再び静かに戻ってくる第一主題はもとのように楽しげだが、そこには新しい予感が見え隠れする。
華やかな総奏のフォルテシモはやがて広い海に流れ出し、明るい夜明けを見る。優しく提示部が再現されてゆくが、そのうちオーケストラ全体が緊張感のあるリズムを刻み始め、小さな波から大きな波へと広がりながら旅の終わりを予感させる。
ファンファーレのように奏でられる低弦・ファゴット・トロンボーンの下降音階は、高音楽器に受け継がれながらクライマックスを宣言する。

弦楽器と木管楽器、ティンパニが八分音符を共に強く歌い切り、そこにトロンボーンやテューバも加わり、オーケストラ全体は喜びに満ち溢れて終止音を迎えるのだ。

楽器編成

フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、弦五部

2013/3/9